東京都府中市 不動産売買 「祖父の残した遺言」第9話
その時、かねて主人より嫁の相談をうけて居ったがその人を貰って下さいと申込んだ處、撥ね付けられた。
止むを得ず私が直接直談判して話をまとめ自分の貯金三十円睦会貯金より五十円を借用他に鈴木杏策氏より三十円を借用しその資金を以て婚礼費用に充てた。
間もなく家庭の生活の第一歩に入った。
其の時の住所は東四番町六九番地であった。
借財も数ヶ月にして返済した。
これからは着類や家財を整えるべく準備の矢先妹のキヨの借財八十円が飛込みそれを返済するに数ヶ月を要したがその後は順調な生活に入った。
十数年の間に子供二人を亡くした。
妻は北目町通りに於いて七年間病臥し子供五人を残して遂に死別した。
営業は順調に進み再び妻を迎えて十数年を過ごしたが其の間彼の戦災に遭い一物も無くなって妻には非常な苦労を掛けたことは今だに忘れられない。
戦災後、東一番町の現住所に復興の第一歩を踏み出した矢先妻は病臥し病状は意外に悪化して遂に又も子供七人を残して死別した。
私も重なる不幸に全く悲嘆に呉れたが其の時妻の姉であるミツ子様の同情と御厚意に感謝して子供等の養育と私の慰めを受けたが不らつにも他の奥様を何等相談なしに妻同様に同居させて居った。
自分ながら自分を戒めて居ったが小さな子供の愛情の為には義理も恥も棄てなければならなかった。
その後右の人の夫より散々な屈辱的な手紙を数十通受けたが自分が侵した罪故致方なかった。
今後はそれに対しても自分の行を世間の人より模範として見上げられる様精進して居る。
そして家族の将来の幸福の基礎を作る方針である。
父が健在中は何の心配も掛けぬが、将来は兄弟一同心を一にして善良なる方針を立て協力一致して邁進して貰いたい。
何事に於いても人間として愛情と礼儀を正しく行うべし。
神と仏に信仰を持たぬものは人間として資格は無い。
善は栄えるが悪は必ず滅びる。
成功の基礎は正しき心掛けと奮闘努力に実行にある。
この文面は私の言語其の侭を筆記せるものなり。
代筆者は、谷 東里なり。
昭和二十六年三月十日
村松 彦助述
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